日本多施設共同コーホート(J-MICC)研究10周年記念シンポジウム:開会の挨拶・来賓挨拶

日本のゲノムコーホート研究の未来

2015年12月11日(金)・名古屋

2005年にがん特定領域研究事業として開始された「日本多施設共同コーホート(J-MICC)研究」が10周年を迎え、次の10年を見据えての記念シンポジウムが開催された。J-MICC研究に携わってきたメンバーや疫学研究の重鎮・リーダー的存在である専門家が一堂に会し、疫学研究の歴史やJ-MICCの歩み、今後の展開などが語られた。シンポジウムは、J-MICC研究の主任研究者である田中英夫氏(愛知県がんセンター)による開会の挨拶から始まり、来賓の挨拶、その後、第1部、2部、3部の形で進行し、3部の後半では若手研究者によるパネルディスカッションが行われた。約4時間のシンポジウムは中味がぎっしりと詰まり、研究者たちの熱い思いにあふれ、J-MICC研究の今後がおおいに期待される内容であった。

開会の挨拶

田中英夫氏(愛知県がんセンター研究所疫学・予防部 部長)

田中英夫氏

J-MICC研究にとって、2015年は10年目の節目の年に当たっています。今後、オールジャパン体制で日本から少しでも多くの成果を上げられるように、若手研究者も含め、先生方の日頃の思いを語っていただき、今後の活動につなげていきたいと考えております。

来賓の挨拶

齋藤英彦氏(国立病院機構名古屋医療センター 名誉院長)

齋藤英彦氏

J-MICC研究は10万人の大規模コーホート研究に成長し、すでに多くの論文も発表されています。関係者の方々のご努力に敬意を表します。私は内科医ですが、疫学研究の先達である青木國雄先生、富永祐民先生のご指導のもと、J-MICC研究の代表会員も務めさせていただいております。

疫学の研究者に感心することが3点あります。第1に長い時間がかかること。内科医が関係する新薬の臨床研究・臨床治験もすぐには結果に結びつきませんが、それでも数年でほぼ結論が出ます。一方、疫学研究は一代の研究者だけでは研究が完結しません。第2にチームワークが非常に重要で、多くの研究者との密接な連携・協力が求められます。第3に長期にわたり研究費を確保する難しさがあります。多くの生体試料の管理には多大な費用がかかりますし、脱落をなるべく少なくして追跡調査をする苦労もあるかと思います。このような幾多の困難を乗り越えて結果が出た時のインパクトは大きく、研究者の方々の喜びも格別なものと想像します。

近年、ゲノム科学が加わって環境要因とともに遺伝要因の解析も可能になり、コーホート研究の威力が倍増しました。今後オールジャパン体制で研究を継続し、世界をリードする成果が出ることを期待しております。

村上善則氏(東京大学医科学研究所 所長・教授)

村上善則氏

10年間で目標の10万人のサンプル数を達成されたのは、元々の計画が非常に素晴らしいこと、田中英夫先生はじめ共同研究者の方々が真剣にご努力なさった賜物だと心より敬服しております。

私自身は長くがん研究に携わり、近年はがん化と進展の分子機構の解明に取り組んでいます。2000年以降はがん分子疫学のグループにも参加させていただき、田島和雄先生、浜島信之先生とともに研究に従事しました。現在、東大医科研内に設立されたバイオバンク・ジャパン(BBJ)の事業にも携わっており、J-MICC研究のモニタリング委員も務めさせていただいています。

疫学というのは人間の健康に関わる最も大事なところを追究する学問であり、科学の本来の姿でもあります。同時に、私はカラフルな憧れのイメージをもっています。疫学に興味のある有志が集い、研究に打ち込む姿は本当に素晴らしいと思います。サイエンスは縦割りの組織を超えたところにあり、今後日本にとってはますます共同研究の盛んになることが必要です。J-MICC研究の大成功はまさにその模範的な例になるでしょう。

こうした息の長い研究を国からも継続してサポートしていただけるように、社会に対しても情報発信をしていかないといけません。私も微力ながらBBJなどを通じ、共同研究者、仲間としてぜひJ-MICC研究と連携させていただきたいと思っております。

髙橋雅英氏(名古屋大学大学院医学系研究科 研究科長・医学部長)

髙橋雅英氏

コーホート研究は、多数の研究機関の参加と粘り強さを必要とする息の長い研究です。長年J-MICC研究に参加されている研究者の皆さんに、この場で敬意を表したいと思います。

がんの予防対策は、古くはイギリスにおける煙突掃除人の陰嚢皮膚がんの疫学研究に基づいて発症予防が行われたことが代表的な例として知られています。近年はたばこをはじめとした嗜好品・食生活、環境などと特定のがんの発症の関係などが明らかになりました。さらにヘリコバクター・ピロリと胃がんの関係など、日本で行われたコーホート研究は大きな成果をあげています。今後のJ-MICC研究から発信される成果にも期待しております。

しかし、10年前、20年前と比較すると医学・医療は大きく進歩しています。コーホート研究についても医学研究の進歩をあらかじめ視野に入れ、その変化に耐えうる研究デザインの立案や新たな研究手法を柔軟に取り入れる工夫も必要でしょう。

名古屋大学では生体試料保存のためのフリーザー室の整備を行い、J-MICC研究を支援しています。データ解析技術や情報技術の進歩は目覚ましく、多数の試料をより有効活用し、国民の健康増進に有益な研究成果をあげることを心より期待しております。名古屋大学は予防医学教室を有する数少ない日本の大学の一つであり、愛知県がんセンターは日本の疫学研究の中心を担っています。名古屋地区が引き続き日本の疫学研究と予防医学を推進するメッカとして発展していくことを祈念します。

田島和雄氏(三重大学医学部附属病院 病院長顧問)

田島和雄氏

私は来賓というより内輪なので、やや視点を変えて分子疫学コーホート研究の立ち上げに関してお話しします。

戦後、日本では10万人規模のコーホート研究が約10年ごとに始まっています。近年の代表的なものとしては青木國雄先生を中心として始まり、大野良之先生に引き継がれたJACC研究、津金昌一郎先生が主任研究者を務めるJPHC研究などがあります。

私は、2000年から約5年間、文部科学省による「ヒトがんの環境・宿主要因に関する疫学的研究」の領域代表者を務めさせていただきました。多くの先生のご支援のもと、全国ネットでの疫学研究の推進、大規模コーホート研究の支援、他領域との共同による橋渡し的な役割を担ってこの領域を立ち上げました。本研究の総括班には分子疫学コーホート研究の基本となる特別委員会が設置されました。まず、分子疫学生体材料利用委員会の委員長を中地敬先生が務められ、その後、玉越暁子先生が大規模コーホート研究運営委員会の委員長を、分子疫学コーホート準備委員会の委員長を園田俊郎先生がそれぞれ担当されました。こうした分子疫学コーホート研究立ち上げの準備段階には多くの苦労がありました。

そして、2005年にJ-MICC研究が始まりました。当時、生体試料を含めて10万人のサンプルを集めるのは至難の業だと考えられていましたが、開始から10年を費やして目標を達成しました。J-MICC研究はようやく水平飛行に入りましたが、この大規模コーホート研究を維持していくには研究費のサポートも必要ですし、世代を超えた研究者の熱意によって大きな研究成果が得られることを期待しています。

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