日本多施設共同コーホート(J-MICC)研究10周年記念シンポジウム:第3部

嶽﨑俊郎氏

第3部は前半・後半に分けて行われた。前半は鹿児島大学の嶽﨑俊郎氏が座長を務め、J-MICC研究に関連した研究の実績について報告された。後半は主任研究者の田中英夫氏が座長を務め、全12フィールドのうち7フィールドから若手研究者が集ってパネルディスカッションが行われ、J-MICC研究にかけるそれぞれの思いが語られた。最後に若井建志氏の閉会の言葉でシンポジウムは終了した。

座長:嶽﨑俊郎氏(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科
国際島嶼医療学講座 国際離島医療学 教授)

痛風・高尿酸血症の関連遺伝子同定とJ-MICC研究との関わり

松尾洋孝氏(防衛医科大学校分子生体制御学講座 講師)

松尾洋孝氏

痛風・高尿酸血症は生活習慣病の一つとして知られています。J-MICCとの共同研究により、痛風を引き起こす遺伝子変異の存在や、高尿酸血症の発症において肥満や飲酒などの環境要因以上に遺伝要因が強い影響力をもつことが明らかになってきました。

そもそも、防衛医大で尿酸の研究が始まった契機は、激しい運動により引き起こされる「運動後急性腎不全」を合併症とする腎性低尿酸血症という疾患にあります。この疾患をもつ自衛隊員が訓練などの運動後に腎不全を起こすことがあります。われわれはこれまでに陸上自衛隊の症例解析と海上自衛隊の5万人の健康診断データベースを駆使して低尿酸血症症例を見つけ、原因遺伝子と生理学的な機能分子の同定に成功しました。すなわち、腎臓近位尿細管において尿側から血液側に尿酸を再吸収する尿酸トランスポーターであるURAT1(SLC22A12)とGLUT9(SLC2A9)を同定することができました。これらはそれぞれ腎性低尿酸血症1型と2型の原因遺伝子として知られるようになりました。

J-MICCとの共同研究の最初の成果は痛風遺伝子ABCG2の発見であり、ABCG2が尿酸輸送体としての機能をもっていることも併せて見出しました。痛風患者と健常人で遺伝子配列を比較したところ、尿酸が排出されにくくなるABCG2遺伝子の変異が見つかりました。特に重要な遺伝子変異は、尿酸排泄能を完全に消失させるQ126Xと機能を半減させるQ141Kの二つです。それぞれ独立したリスクであり、患者の8割がいずれかの変異をもっていました。二つの変異の組み合わせにより機能が「正常」「3/4」「1/2」「1/4以下」と評価でき、機能が低下するにしたがって発症リスクが3倍から10倍に上がることがわかりました。ABCG2遺伝子多型解析は、2012年末から生活習慣病の検査としては初めて医療機関で検査発注ができるようになりました。

第2の成果は、高尿酸血症の発症は飲酒・肥満といった環境要因よりも遺伝要因が強い影響力をもつという事実を見つけたことです。浜松市のJ-MICC研究参加者5005人を対象に解析し、人口寄与危険度割合と呼ばれる影響力の強さの指標を調べたところ、肥満(19%)、多量飲酒(15%)に比べ、ABCG2遺伝子変異は29%とかなり高かったのです。これはJPHC Studyで明らかになった全がん発症に対する喫煙の影響と同等のリスクです。

第3の成果は、痛風における尿酸トランスポーター分子複合体(尿酸トランスポートソーム)の影響を明らかにしたことで、痛風と、尿酸トランスポーター遺伝子およびそれらを制御するPDZK1やLRRC16Aとの関係の強さを証明することができました。トランスポートソームのなかでも重要なのは第4の成果で、腎臓特異的尿酸トランスポーターNPT1(SLC17A1)が腎臓近位尿細管腔側に局在することを初めて組織学的に証明するとともに、この遺伝子多型が尿酸排泄能を高めて痛風の発症に保護的に働くことを報告しました。

第5の成果である日本人男性痛風患者におけるゲノムワイド関連解析(GWAS)の論文では、臨床診断された痛風のGWASを世界に先駆けて実施して、痛風の遺伝子座の発見に加えて治療との関連を考察できる結果を出すことができました。J-MICCおよび理研BBJとの共同研究として、疾患群1993人と対照群2547人の遺伝子を比較したところ、痛風の遺伝子座として新規のものを含めて五つの領域が同定されました。最も関連の強いのはABCG2とGLUT9(SLC2A9)の二つの尿酸トランスポーター遺伝子で、痛風患者の多くはこの違いで二つの型に臨床分類され、適した治療薬も異なる可能性が示されました。そのため、痛風のリスク予測だけでなくコンパニオン診断にも活用できることが期待されます。

J-MICCとの共同研究としてこれまでに16論文を発表しています。今後、J-MICCとの共同研究を進めて痛風・高尿酸血症の遺伝子解析を進展させることで、痛風・高尿酸血症のゲノム個別化予防・治療に活用できる日本発の成果がさらに期待されます。

痛風の原因遺伝子「ABCG2」
痛風の原因遺伝子「ABCG2」

J-MICC横断研究の成果と展望

原 めぐみ氏(佐賀大学医学部社会医学講座予防医学 講師)

原 めぐみ氏

まず、J-MICCにおける遺伝子多型(SNP)横断研究の位置づけと研究の進め方についてお話しします。SNPの測定は表に示した手順で2回に分けて行われ、最終的に第1回分108SNPs、第2回分357 SNPsが選定されました。

データ配布は2010年と2011年に行われ、遺伝子型と表現型の組み合わせでテーマを提案。第1回分は37テーマ、第2回分は19テーマが提案されました。現在までに論文化されたのは23テーマです。表現型で分類すると、腎機能が約3割、糖代謝・脂質代謝が約2割、肝機能が約1割です。

次に、佐賀地区の研究について紹介します。ベースライン調査を2005~2007年、5年後調査を2010~2012年、そして2015年から10年後調査を行っています。最終的な参加者は1万2078人です。佐賀地区の強みは参加者のほぼ全員に電子歩数計を10日間つけていただいた点で、身体活動量による詳細な検討が可能です。

佐賀地区のSNP横断研究ではこの強みを生かし、身体活動量との関連や遺伝環境交互作用が見込まれるものや、肥満や糖代謝、脂質代謝を表現型にしたSNPを選びました。これまでに2件が論文掲載に至り、投稿中の2件がまもなく受理される見込みです。そのなかの一つを紹介します。PPARγ2の多型とHbA1c値の関係です。PPARγはチアゾリジン系薬剤の標的分子でもありますが、この多型をもつ人は肥満や糖尿病を発症しにくいことが白人で数多く報告されていました。日本人でも糖尿病患者でこの変異型が少ないことがわかっていましたが、健常人での変異とHbA1c値の関連や、肥満などとの遺伝環境交互作用についての検討は不十分でした。

J-MICC研究のSNP横断研究のデータを使って検討したところ、次のようなことがわかりました。まず、野生型では年齢やBMI、家族歴といった既知のリスクファクターによってHbA1cが高値となるのに対し、変異型ではその影響がみられませんでした。また、女性ではBMIとの交互作用が有意にみられました。ただ、野生型に対して変異型の頻度は10%未満と少なく、この集団では約6%でした。したがって、大半の日本人にとっては肥満など既知のリスクファクターを改善することが重要だという結論になります。

残念ながら、身体活動量による交互作用は明らかになりませんでした。佐賀地区の横断研究はまず仮説ベースで考え、多型の報告のあるものに着目してSNPを選定しました。かつ単一遺伝子か数個の遺伝子の検討であったこと、日本人に頻度が少なく影響の小さいものが多かったという限界があったと思われます。今後はGWASに着手し、新たな遺伝的な感受性を見出したうえで遺伝環境交互作用を検討したいと考えています。

SNP横断研究の進め方
SNP横断研究の進め方
SNP横断研究の進め方

若手研究者によるパネルディスカッション

  • [座長]
    田中英夫氏(愛知県がんセンター研究所疫学・予防部 部長)
  • [パネラー]
    栗木清典氏(静岡県立大学食品栄養科学部栄養生命科学公衆衛生学研究室 准教授)
    嶋谷圭一氏(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科国際離島医療学 大学院生)
    小山晃英氏(京都府立医科大学大学院医学研究科地域保健医療疫学 助教)
    高嶋直敬氏(滋賀医科大学社会医学講座公衆衛生学部門 講師)
    釜野桜子氏(徳島大学大学院医歯薬学研究部予防医学分野 助教)
    川合紗世氏(名古屋大学大学院医学系研究科予防医学 研究員)
    細野覚代氏(愛知県がんセンター研究所疫学・予防部 主任研究員)

疫学研究に関わるようになったきっかけ

座長(田中氏):本シンポジウムのテーマである「日本のゲノムコーホート研究の未来」は、若い研究者にかかっています。このパネルディスカッションでは、J-MICC研究に携わる若手の先生方に思いを語っていただき、それを受けて全員が気持ちを新たにすることができればと思っています。まずは各先生に、J-MICC研究に携わったきっかけと現在行っていることをお話しいただきたいと思います。

栗木清典氏

栗木氏:愛知県がんセンターをはじめ10年間疫学を勉強してきて、その知識とノウハウを実践で発揮したいと思い、フィールドを立ち上げるところから頑張ってやってきました。現在は、2016年度から始まる第二次調査に向けて計画を立てているところです。

川合紗世氏

川合氏:私のバックグラウンドは農学部で、疫学をまったく知らずに大学院に入りました。大学院生になったのがJ-MICC研究が始まる頃で、私の疫学はJ-MICCから学ばせていただきました。今は中央事務局を中心に、名古屋大学のフィールド調査に関わらせていただいています。

細野覚代氏

細野氏:もともと産婦人科を専攻しており、大学院の時に疫学予防の世界に足を踏み入れました。その時、浜島信之先生や当時疫学予防部の松尾恵太郎先生に非常にお世話になりました。現在は愛知県がんセンターのフィールドで疫学研究をしており、第二次調査などを中心に関わっております。

高嶋直敬氏

高嶋氏:学生時代は遺伝子の細胞内情報伝達などを研究していましたが、2007年に滋賀医科大学に赴任し高島研究に関わることになり、その流れでJ-MICCの研究もさせていただくことになりました。今は主にフィールドの調査を中心に行っております。

小山晃英氏

小山氏:実験室で細胞やマウスを対象にした循環器研究に携わっていましたが、自分が研究してきた物質をヒトに活かしたいと考え、2014年度から京都府立医科大学に着任してJ-MICC研究に関与しています。現在は自分たちのフィールドの調査を上乗せして独自研究で自分の追っている物質をさらに深めていきたいと研究を進めています。

釜野桜子氏

釜野氏:大学は栄養学科の出身で、大学院の博士課程にストレスのバイオマーカー研究を医学系の教室で行っておりました。その時に疫学や統計というものを独学で学び、その後徳島大学予防医学教室の勉強会に参加したことで疫学研究に興味が湧きました。2011年から現職となりJ-MICC研究に関わらせていただいています。最初は食事調査で、現在は追跡調査に携わっております。

嶋谷圭一氏

嶋谷氏:私は保健師として行政に近い法人で健康増進などの事業に関わっていたのですが、事業の大元になるエビデンスはだいたい疫学系の研究などになりますので、そういった研究を学びたいと思っていました。大学院生として入った今の研究室がJ-MICC研究を行っており、そのまま自然に関わることになりました。今は、二次調査、罹患調査に力を入れているところです。

苦労、現状への思い

座長(田中氏):他の分野から疫学研究に入ってくる方は少なくありません。そこで疫学に染まっていくか、また出て行く方もいらっしゃるという入れ替わりのあるのが疫学の世界の特徴です。次に、今どのような苦労、状況を抱えて研究を行っているかをお話し願えませんか。

栗木氏:最後のほうに立ち上がったコーホートということもあり、皆様に追いつくのが精一杯というのが現実ですが、少しずつ学会発表も出てきているところです。静岡の独自性を研究に組み込みながら、地域におけるコーホートと全国におけるコーホート、それから世界に向けてのコーホートと分野を三つに分けて研究成果を出していきたいと考えています。

川合氏:中央事務局は全フィールドをとりまとめており、データを出す側ともらう側の両方に気を遣いながら仕事をしています。大学院生がやりたい研究のためにデータ作りもしており、自分のデータを作る時間が足りないというジレンマはあります。今、第二次調査まで終わり、やっと成果を出せる時期に来ました。多くの人が関わってきたデータをしっかり管理し、良い結果を出せるように地盤作りをしていかなければいけないと思っております。

細野氏:愛知県がんセンターは中央病院の初診患者さんが対象で、他のサイトとは参加者の特性が違うのですけれども、田島和雄先生が作られたHERPACC研究を元に行っていたので、最初から体制作りができていて、システム作りに苦労をしたという印象はありません。しかし、多くのがん患者さんがおられますので、診療や患者さんの体調などに気を遣いながら実施する点が大変でした。

座長(田中氏):高嶋先生は循環器疫学のメッカである滋賀医大におられますが、先生から見たJ-MICC研究は?

高嶋氏:がんのコーホート研究の場合、県庁などで発症された方のデータをいただけますが、循環器の場合は死亡のデータはいただけるのですが、発症のデータを得ることができません。そうした違いを感じました。

今後の抱負や夢は?

座長(田中氏):小山先生、今後J-MICC研究をどのように使って自分自身の研究を発展させていくかといった抱負、夢などがあればお聞かせください。

小山氏:今、オミックス解析やゲノム解析が非常に進んできており、基礎の技術が疫学にかなり応用されていると感じます。10年前に比べると得られるデータ量も膨大になっています。夢というほど大げさな話ではありませんが、J-MICC研究で得られたデータを実験ラボに落として、疾患のメカニズムの解明などに活かすことを目指したいです。

釜野氏:管理栄養士なので食要因に興味をもっています。食要因と遺伝子との交互作用などについてのGWAS研究にも関わらせていただけたらと思っております。

嶋谷氏:研究結果を政策決定の場にスムーズにつなげ、それを幅広く住民の方に享受していただけるようにという視点をもって取り組んでいきたいと思っております。

座長(田中氏):JPHC Studyの成果などはかなり実地に使われています。われわれはそれに遺伝子情報を加えた形での個別化予防につなげていかなければなりません。若い先生同士が情報交換をし、他のコーホート研究とも連携して活動していただきたいと思います。最後に、そうした活動をコーディネートしている岩手医大の清水先生にメッセージをいただければと思います。

清水厚志氏

清水厚志氏(岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構):研究を進めるうえで最も重要だと思うのは人と人との連携です。特にゲノムコーホートが始まると、次世代型のゲノムシーケンサーやACGTの数十億といったデータが出てきます。データを触る前にその裏にはたくさんの人の思いが詰まっていることを認識する。その思いさえあれば、お会いした方と気持ちが共有でき、望ましい連携を進めることができると思います。

座長(田中氏):若手研究者がJ-MICC研究の志を引き継ぎ、今後の10年を担ってくれることを期待しております。本日はどうもありがとうございました。

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