明日のJ-MICC研究を支えるフロントランナーたち:第3回

「J-MICC 研究鹿児島フィールド」
鹿児島大学大学院医歯学総合研究科国際島嶼医療学講座

鹿児島大学大学院医歯学総合研究科国際島嶼医療学講座教室入り口

鹿児島県は本土と呼ばれる九州本土とその西部や南側に点在する多くの離島に分かれます。南北600キロの広大な県域には28の有人離島があり、温暖で豊かな自然環境や個性的な伝統文化が残されています。鹿児島県のJ-MICC研究は主にこの離島地域を対象として実施されており、鹿児島大学大学院医歯学総合研究科国際島嶼医療学講座が担当しています。同講座は、島嶼における地域包括医療の確立を目指す離島へき地医療に取り組んでおり、鹿児島の特性を生かした全国にも類を見ないユニークな講座です。ベースライン調査は2005~2012年にかけて行われ、奄美群島の5島(1市9町)と本土の3市で計7,871名の協力が得られました。このうち5島の3,030名を対象に2010~2013年にかけて第2次調査が行われました。

(取材日:2015年2月23日)

チームワークの良さが自慢

嶽崎俊郎氏(国際島嶼医療学講座教授/離島へき地医療人育成センター長)

嶽崎先生はどのような経緯でJ-MICC研究に関わることになったのですか

嶽崎氏私は2003年に愛知県がんセンターから鹿児島大学に赴任したのですが、J-MICC研究が立ち上がった時の主任研究者だった名古屋大学の浜島信之教授が、愛知県がんセンター時代の研究仲間だったのです。それでJ-MICC研究の開始を知る機会を得て、しかも離島でコーホート研究を立ち上げたいと考えていた時期とも一致し、ぜひ、参加させていただきたいということになりました。

鹿児島フィールドに関わっている職種を教えてください

嶽崎氏現在、私と助教、大学院生、事務職の計4名、その他サポート要員として留学生が2名参加しています。2005年10月のスタート時からのメンバーの変遷はありますが、常に少数精鋭で動いており、チームワークの良さが自慢です。

第1次調査はどのように進んだのですか

九州本土とその西部や南側に点在する多くの離島

嶽崎氏奄美大島、徳之島、喜界島、沖永良部島、与論島の5島から成る奄美群島(以下、あまみ)を対象としました。あまみを選んだのは離島の中では人口が多く、本土とは異なる生活習慣を有するところがあるからです。2005年の沖永良部島を皮切りに、2006年に徳之島と与論島、2007~2008年が奄美大島と喜界島、さらに2012年に本土の出水市、伊佐市、鹿屋市の3市を追加しました。本土を加えたのは、離島だけでは十分な参加者が得られなかったことと、本土と比較することで離島の特徴が際立つと考えたからです。最終的にベースライン調査には7,871名が参加し、うちあまみの3,030名を対象として2010~2013年に第2次調査を行いました。なお、本土3市は今後、追跡調査のみを行うこととしています。

調査を進めていく上でご苦労された点は?

嶽崎俊郎氏

嶽崎氏初年度の沖永良部島の調査では、まず参加者をどのように集めるかに苦慮しました。一般住民に直接依頼したのでは高い参加率は得られないだろうと考え、市町村が行う住民基本健康診査の受診者を対象とすることにしました。島に健診センターはなく、健診はJA厚生連の健診車で8か所を巡回して行われます。厚生連や地元市町村などに快く協力していただき、参加者リクルートの問題はクリアできる目処がつきました。ところが、厚生連は県内全域を巡回しているため、1つの島での健診期間が限られてしまいます。そのため1日の受診者が多くなり、午前中だけで300名が受診する場合もあります。
待ち時間が長くなると研究への参加率が低く、途中で辞める人も増えます。そこで、待ち時間を少なくするため、研究説明は集団で行い、同意を取る看護師を8~10名確保しようと考えました。ところが、島にはそれだけの看護師がいなかったのです。しばらく眠れない日が続きました。鹿児島県と沖縄県のハローワークで看護師の求人を出したり、看護協会のWebで応募をかけたりしたのですがほとんど反応はなく、結局、細い伝手をたどって10名集めることができました。本土や岐阜(離島や途上国に興味がありました)から来てくれた看護師もいました。また、他のフィールドや中央事務局のJ-MICC研究者が手伝いの応援に来てくれたのも有り難かったです。スタッフは島に泊まり込み、健診は朝6時半から始まります。準備があるので毎朝5時起き。そんな生活が3週間続いたわけです(笑)。

離島での調査には不便もあったのでは?

嶽崎氏採取した血液は6時間以内に分離して摂氏マイナス80度で凍結保存しなければならないので、血液処理を行う場所の確保と準備が大変でした。ただ、冷凍庫や遠心機などは大学から持ち込めばいいので、部屋さえ確保できればなんとかなるという読みがありました。というのも、私はかつてボリビアやチベットでHTLV-1(ヒトT細胞白血病ウイルス)の疫学研究に携わり、条件の良くない場所で血液を扱う経験をしていたからです。沖永良部島では、地元市町村の保健センターの1室を提供していただき、検体処理と保存の問題は解決しました。機材一式はすべて2tトラックに積んでフェリーで沖永良部島まで17時間かけて運びました。

離島ならではの苦労としては台風がらみのトラブルも頻発します。現場の冷凍庫は血液検体3日分でいっぱいになってしまうので、3日ごとに大学へ送らなければならないのですが、ドライアイスが入っているので飛行機では2キロまでしか運べません。そこで船便で送らなければならないのですが、台風が来ると船は止まってしまいます。台風の進路や気象庁の波の予測をにらみながら、タイミングを見計らって検体を送ることが必要になります。おかげで、台風の進路予想もだいぶ上達しました(笑)。

疫学調査の成功の秘訣は何でしょうか

嶽崎氏「人」です。フィールドに興味のあるスタッフや住民の健康のためにと関心を持ってくれる市町村の職員や健診担当者などが集まればうまくいくでしょう。現地での人間関係も重要です。われわれも研究という点をあまり強調せず、健診をお手伝いするとのスタンスを心がけました。

J-MICC研究の意義をどうお考えですか

あまみ特有の調査項目
あまみ特有の調査項目

嶽崎氏高齢化が加速する日本では予防の重要性がより高まっていますが、J-MICC研究は従来とは違った切り口の疾患予防を目指しており、将来に向けてのエビデンスの確立が重要な研究目的です。とくに、離島は医療資源が限られており、島内で治療できない疾患は島外に行かざるを得ません。したがって、がんなど重篤な病気ほど予防の重要性がより高くなります。あまみではがんに加えて循環器疾患や脳卒中に関しても予防研究を行い、地域住民に還元できる情報を得ることを目指しています。

鹿児島フィールドの今後の展開は?

嶽崎氏しっかりとした追跡調査によるデータの蓄積が重要です。ただ、がんの追跡調査はがん登録のデータと照合すれば可能ですが、離島ではがん登録データがないので、われわれが出向いてデータを集めなければなりません。参加者と直接会えれば、より正確な罹患情報を得て病院のカルテをチェックすることも可能です。そのため、今後も現地での罹患調査は行いたいと考えています。参加者に会えない場合は手紙や電話でお願いをしたり、同意を得た上でレセプト書類を閲覧するといったアプローチも行っています。

先生が仕事に向き合う際に大切にしていることは何ですか

嶽崎氏

嶽崎氏研究面では、人は間違いを犯すという前提でチェックを繰り返すことです。教育では、後進が研究者としてレベルアップできる機会をできるだけ与えるようにしています。手取り足取り教えるのではなく、自ら経験して学べるよう上手に失敗させることも考えています。

仕事から離れてほっとする時間は?

嶽崎氏仕事からは離れられません(笑)。仕事が一区切りつけば短期的にはほっとしますが、常に先のことばかり考えています。趣味らしい趣味もありませんが、いろんな地域に行って、風土や人、習慣に触れたり、食材や食生活を観察して体験することが好きです。フィールドでの調査が無事に終わって、みんなと島で地元の食事を食べたり飲んだりする時間がいちばんの楽しみですね。

受診して良かったと思ってもらえるように

指宿りえさん(国際島嶼医療学講座国際島嶼医療学分野助教)

J-MICC研究にはいつから、どのような形で関わっていらっしゃるのでしょうか

指宿りえさん

指宿さん2014年の6月から携わっています。疫学の世界に入ってすぐに嶽崎先生のやっておられるJ-MICC研究に参加できたことは非常に幸運であり、恵まれた環境だと思います。
鹿児島フィールドでは、J-MICC研究共通の調査以外に、循環器疾患や脳血管疾患の予防や長寿との関連を調べるためCAVI(心臓足首血管指数)による動脈硬化の検査も行っています。私は罹患調査を担当し、動脈硬化の測定を兼ねて、受診者の方々の健康状態などの情報を収集しています。そういった仕事を通して、疫学調査や地域の人と交流を深めていく面白さを感じています。

調査をスムーズに進めるためにどのようなことを心がけていますか

CAVI 検査の様子
CAVI 検査の様子

指宿さん参加者の中には5年前にCAVIを1回受けていても忘れており、「今日は何の検査をするんだろう」と心配される方もいらっしゃいます。世間話などでリラックスしていただいたり、「血管年齢がこんなに簡単にわかるんですよ」と説明し、受診して良かったと思ってもらえるよう心がけています。私は以前、管理栄養士として病院で働いていた経験があり、栄養指導をする時にいかに患者さんから情報を聞き出せるかが大事だと感じていました。患者さんは検査データが悪いと食生活や食事内容のことなどを話したがりません。ですから、なるべく相手に嫌だと感じさせずに、気軽に話してもらったり、自分自身で問題点に気づいてもらい食生活を改善してもらうことが必要です。疫学調査も同様で、相手に負担を感じさせずに、正確な情報を引き出すことができるかが重要だと思います。罹患調査では地元の看護師に手伝っていただくのですが、やはり地元の方同士だと親近感もあり、スムーズに聞き取り調査が進みます。まずは受診者の方との良好な関係性を作ることが大事だと感じました。多くの受診者の方が5年後の第2次調査にも快く協力してくださるのは、長年の人間関係の積み重ねがあるからだと思います。

動脈硬化の検査に対する参加者の方の反応などはいかがですか

指宿さんCAVIは動脈硬化の程度を数値で示すことができる測定方法で、前回のCAVIのデータと比較してその場で説明するので、受診された方はご自身の状態がよくわかるようです。CAVIをきっかけに疾患が早期発見されて助かったという方がいることも耳にしています。

管理栄養士の視点でJ-MICC研究への期待は?

指宿さん5年後の調査で健康状態に変化があると、食生活について詳しくお聞きしたくなります。私は、脂肪肝の発生に関するメカニズムについて研究しています。食生活は脂肪肝の発生におおいに関わっており、J-MICC研究で食生活と脂肪肝など疾患との関連にいて何らかの知見が得られればと思います。更にJ-MICC研究が生活習慣病予防と健康長寿の延長を目指す分子栄養疫学の進歩にもつながることを期待しています。

仕事から離れてリフレッシュできるのはどんなときですか

指宿さん私は、おいしいお店や新しいものを発見して食べることが好きです。嶽崎先生は、いろいろおいしいお店をご存じなのでよく紹介してくださり、学会や出張先、フィールド調査の時などに連れて行っていただいています。また、調査後の教室のみんなでの宴をいつも楽しみにしています。そんなひとときでリフレッシュしています。

チームにいかに溶け込んでいくか

嶋谷圭一氏(大学院生)

どういう経緯でJ-MICC研究に参加するようになったのですか

嶋谷氏5年ほど保健師として公衆衛生の現場で働いていたのですが、ご縁があって4年前からこの研究室で勉強させていただくことになりました。もともと集団や地域にアプローチしていく疫学には関心を持っていましたから、J-MICC研究にもぜひ参加したいと。とにかくフィールドでの調査を経験してみたいという思いがありました。

初めて体験したフィールドでの調査はいかがでしたか

嶋谷氏鹿児島フィールドは健診のチームと一緒に動いているわけですが、自分が大学を卒業して働き始めたのが健診の現場でした。健診の流れ自体はわかっていたので、それが役立ちました。しかも、たまたまですが、健診の現場で働いていた時のメンバーが何人かあまみの健診を担当していたのです。J-MICC研究に参加した当初は、「チーム嶽崎」にどう溶け込んで調査を進めていくかがテーマだったので、この偶然は私にとって非常にラッキーでした。

「チーム嶽崎」に溶け込むために努力されたことは?

本土では嶽崎氏手作りの紙芝居で説明を
本土では嶽崎氏手作りの紙芝居で説明を

嶋谷氏ひたすら動き、ひたすら頑張ることでした。端からはどう見えたかはわかりませんが(笑)。ただ、健診や調査の流れの足を引っ張らないようにということには気を遣いました。すでにシステムはでき上がっていたので苦労らしい苦労はありませんでしたが、研究に参加してもらう同意を取るための説明には苦慮しました。J-MICC研究の売りの一つがゲノムを使った検討ですが、遺伝子のことを説明する時などに、つい難しい言葉を使ってしまいがちです。遺伝子多型などと言っても一般の人には通じません。その点、嶽崎教授は住民への説明会で手作りの紙芝居を使ってわかりやすく説明するので参考になります。

J-MICC研究のやりがい、今後の抱負を教えてください

嶋谷圭一氏

嶋谷氏公衆衛生の現場で働いていても、J-MICC研究のような疫学研究を経験することはなかなかできません。これだけの全国的な大規模調査に、末席ではあっても参加できていることが大きなモチベーションになっています。疫学研究は追跡調査までしっかりカバーできて一段落です。どれだけ効率的にデータを収集できるかが勝負だと思います。J-MICC研究はあと10年間継続されますが、私自身も最後まで関わっていきたいと考えています。

趣味や楽しみは何ですか

嶋谷氏以前はフィールドでの1日の調査が終わると、波の音をバックにギターを弾いたりしていました。最近は燻製を作ることに凝っています(笑)。「チーム嶽崎」は地元の食材や料理など食トークでおおいに盛り上がります。それも楽しみの一つです。

スタッフの要望に応えられるような後方支援を

神宮司直子さん(事務)

J-MICC研究ではどういったお仕事をされているのですか

神宮司直子さん

神宮司さん先生方が調査に行かれる時の書類の準備や整理、看護師などとの交渉窓口など、後方支援を担当させていただいています。離島が調査フィールドということもあって、現場では前例のない試みが必要になる場合もあります。そういった現地でのスタッフからの連絡・要望に応えられるように大学の事務と話し合うといったこともあります。調査に行く期間が3週間と長いため、大学院生の出張経費を仮払いしてもらえるよう交渉したこともありました。あまみは台風も多く、調査の時期に台風が来ると予定が変わってしまい、予定外の出費がかかることもあるので、そういった場合の対応も必要になります。

そのへんでご苦労された経験も?

神宮司さんそうですね。ただ、調査が始まってからも現場のスタッフと密に連絡をとることができていましたので、可能な範囲で対応することができました。

チームのメンバーが調査に出発すると、お一人で突発的な事態に対応しなければならないわけですよね。心細くないですか

神宮司さんむしろ、下準備をしてスタッフを送り出すまでがドキドキします。実際に出発する段になると、いよいよフィールド調査が走り出すんだなという感慨を覚えます。

神宮司さんからごらんになって「チーム嶽崎」はどんなチームですか

神宮司さん後方部隊にも気を遣って動いてくれていることを折に触れて感じます。たとえば、普通であれば後方部隊は島での調査を実際に見ることはありません。でも、現地の状況を目で見たほうが書類なども作りやすいだろうということで、1度、徳之島へ出張に行かせていただきました。実際にフィールドワークを見たことで、今自分が作っている書類が現場でどういう作業に関するものなのかをイメージしやすくなりました。

息抜きになるのはどんな時ですか

神宮司さん仕事が一段落してゆったりとお茶を飲んでいる時でしょうか(笑)。

4人で

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