明日のJ-MICC研究を支えるフロントランナーたち:第13回

「J-MICC研究福岡地区」九州大学大学院医学研究院 老年医学分野

静岡県立大学食品栄養科学部公衆衛生学研究室

福岡市は九州最大の都市にして、韓国などアジア近隣諸国との交流も盛んな国際都市。この福岡市東区の住民を対象としたJ-MICC研究を担当するのは九州大学大学院医学研究院老年医学分野です。同研究室では2004年から福岡市東区コホート研究を実施しています。その基礎調査で得られた12,948人のうち、12,544人がJ-MICC研究の対象者として登録され、J-MICC研究本体との連合の形で進められています。2010年2月から2012年12月までに第2次調査が行われ、郵送による生活習慣健康調査および簡易罹患調査を合わせて11,904人、さらにその約95%にあたる10,427人に対して採血検査が行われました。現在、確認作業が行われており、今後追跡調査が実施される予定です。

(取材日:2016年1月25日)

地道に根気強くやっていくことが必要です

大中佳三氏(九州大学大学院医学研究院老年医学分野講師/研究責任者)

九州大学が担当する福岡市のJ-MICC研究のアウトラインを教えてください

大中佳三氏

大中氏もともと九州大学では、21世紀COEプログラムの一環として生活習慣病予防を目指したコホート研究を実施していました。このCOE福岡コホート研究は、福岡市東区在住の50~74歳の住民を対象として約2万人からなるコホートを構築することを目指したものです。担当していたのは予防医学、老年医学、病態制御内科学分野を中心とした20人ほどのチームです。基礎調査は2004年2月から2007年8月まで行われました。このコホートが2008年にJ-MICC研究の参加者としても登録され、老年医学分野が担当することになりました。追跡調査は予防医学のメンバーのサポートもあり、10人弱の陣容で行っています。

老年医学分野がJ-MICC研究を担当することになった理由は?

大中氏当初のCOEプログラムのコホート研究は「大規模コホートに基づく生活習慣病研究教育」というテーマが掲げられていました。生活習慣病といわゆる老年病にはオーバーラップする部分が多く、変性疾患以外の老年病は多くが生活習慣病です。そのため老年医学分野が担当することになりました。

先生は診療もされながらJ-MICC研究に従事しているわけですが、その点での大変さはありませんか

大中氏たしかに大変です(笑)。臨床と疫学研究は性質がきわめて違います。対象となる疾患は同じでも、臨床は現場での対応が中心であり、コホート研究は長いスパンで実施されるものですから、頭を切り換えるのが難しいですね。さらに、大学ですから教育にも携わる必要があります。

疫学研究が診療に生かされることもあるのですか

大中氏もちろん、明らかになったエビデンスは予防など臨床に生かされます。しかし、そうした結果が得られるまでには時間がかかりますから、今行っている研究が臨床に即、生かされるわけではありません。現在の臨床に還元されているのは先人が行ってきた疫学研究の結果です。

COE福岡コホート研究のリクルートの方法やご苦労などをお教えください

大中氏住民基本台帳から対象年齢の住民約5万人を選んで郵送で参加協力を依頼しました。参加率は約24%でした。地域の公民館などで30分ほどかけて説明を行い、参加に同意をいただいた方に対して生活習慣調査と身体計測を行い、生化学検査や遺伝子解析などを目的として静脈血14mlの提供を受けました。基本的に興味のある方に参加していただいているので皆さん協力的でした。ただ、福岡コホート研究が始まった当時は、まだ日本でのコホート研究自体が少なかったので試行錯誤を重ねながら行ってきました。当時の責任者だった予防医学の古野純典先生はいろいろご苦労されたと思います。

コホート研究を実施する上で重要なことは何だとお考えですか

大中氏アンケート調査票などの基礎データをもれなく収集することが最も重要だと思います。時間が経ってしまうとわからなくなることもありますし、記憶があやふやになってしまいますから。

J-MICC研究の意義をどうとらえていますか

大中氏全国的に行われている研究なので、日本全体を代表するサンプルが得られるとともに、地域差も明らかになるというメリットがあります。10万人という数の持つパワーはきわめて大きいと思います。

やり甲斐はどのへんにありますか

大中氏やり甲斐よりも大変なことのほうが多いですけど、他の地域の先生と知り合い、情報交換をしたりするという楽しみがあります。

福岡コホート研究独自の調査項目やJ-MICC研究との違いなどはありますか

大中氏福岡コホート研究では、緑茶とコーヒーに関する調査を加えています。また、J-MICC研究はがんの疫学研究が中心ですが、私自身の専門はもともと内分泌代謝疾患であり、糖尿病などへの興味が強いので、目指す方向は多少違うのかもしれません。ただ、がんも重要な生活習慣病であり、本質的にはJ-MICC研究との違いはないと思います。

先生が仕事に向き合うときに大切にしていることは何ですか?

大中氏地道に続けるということでしょうか。研究も臨床もそうですが、一度にできることは限られています。地道に根気強くやっていくことが必要です。

仕事に向き合うときに大切にしていることは何ですか

大中氏また綺麗事を言いますが(笑)、心のつながりです。協力施設の方々にしても研究参加者にしてもそうですが、面識もない大学教員に突然研究への協力を要請されて、それを快く了承してくれたわけです。そこには何らかの期待が含まれています。そういった方々にとってメリットになる情報をお礼として返すこと、そして、県民や国民に、より健康になるための行動変容を促していくための(科学的根拠に基づく)情報発信がわれわれの責任だと思います。

仕事から離れてほっとする時間は?

大中氏ほっとする時は少ないかもしれませんが(笑)、気分転換に本を読んだりします。幅広くさまざまな本を読みます。あとはお酒を飲むことでしょうか、美味しい日本酒が好きです。

 
検体を保存している冷凍庫は、パネルの数字で温度を確認することができる。

問題に突きあたった際には柔軟な姿勢が求められる

平田明恵さん(九州大学大学院医学研究院老年医学分野)

J-MICC研究に参加することになった経緯を教えてください

平田明恵さん

平田さん予防医学分野で大学院を修了した後に、老年医学分野でお世話になることになりました。当時は第2次調査の最中で、私は追跡調査と結果の解析などに関わっています。

そもそも、なぜ大学院で予防医学を学ぶことになったのですか

平田さん医学部を卒業後に研修医として血液疾患や膠原病の臨床に携わっていたのですが、全く違う分野を見てみたくなり大学院へ進みました。もともと疫学研究自体に対してもそうですが、統計解析に興味がありました。大学院生時代に疫学の文献を読んだり発表したりという機会があり、身近な生活習慣が病気のリスクになることが面白いと思いました。しかも、それを教科書的に学ぶのではなく、電話などで話している方からの情報で明らかになってくることにリアリティを感じたのです。

J-MICC研究に携わってのご苦労などは?

福岡コホート研究の調査票
福岡コホート研究の調査票

平田さん追跡調査で参加者の方に記入していただいたアンケート用紙をチェックしていると、どうしても不明な部分も出てきます。その場合は1件1件、参加者の方にお電話をして確認します。それがJ-MICC研究に関わって最初の仕事でした。参加者の方はそれぞれお仕事もされていますから忙しく、なかなか連絡が取れなかったり、お話をする時間をいただけないことも少なくありませんでした。しかも、電話でお話ししたからといってすべての情報が揃うわけではありません。例えば、医療機関で投薬を受けていても、その薬剤を何のために飲んでいるかを把握されていない方もいます。「心筋梗塞だと言われたから薬を飲んでいる」というので詳しく聞いてみると、心筋梗塞を発症された形跡もなく、予防のために投薬されているという場合もあります。どうすればきれいな情報が揃うかということには、今でも苦慮します。

疫学研究を進める上で重要だと思うことは何ですか

平田さん研究を立案しているわけではないので全体として何が重要かはわかりませんが、個人的に大切だと思うのは柔軟性でしょうか。疫学調査は長期間にわたって続きます。追跡調査では個人情報も蓄積されていきますから、最初の基礎調査の頃と比べて参加者の意識も変わってきます。そうした参加者への対応が難しかったり、思ったような情報が得られない場合もあります。長い研究を継続していくにあたり、問題に突きあたった際には、スタッフが情報を共有し合って、そのたびに改善策などを考えていく柔軟な姿勢が求められるのではないかと思います。

J-MICC研究の意義についてどのようにお考えですか

平田さんアメリカや中国など他の国では膨大な数を揃えた疫学研究を行っています。それに対抗するわけではありませんが、日本としてのエビデンスを出すという意味では10万人規模の研究には大きな意義があると思います。

研究におけるやり甲斐は?

平田さん臨床に携わっていた頃の対象疾患が難病だったので、生活習慣病の疫学に関する知識は机上のものにすぎませんでした。今、学外で多少臨床にも関わっているのですが、参加者の方とのお話や研究の成果として疾患と生活習慣病の関係の確証が得られることで、患者さんに対して説得力のある説明ができるようになると考えています。

J-MICC研究への期待・抱負などを

平田さん遺伝要因と環境要因の交互作用が明らかになることで、個々の患者さんに合ったライフスタイルの提案ができるようになるものと期待しています。

仕事に向き合うときに大切にしていることは何ですか?

平田さん自分のできる範囲で無理をせずに仕事をすること、そしてそのできる範囲を広げるために日々勉強していければいいと思います。

一つひとつ丁寧に向き合っていきたい

河野倫子さん(九州大学大学院医学研究院病態制御内科学分野)

J-MICC研究に関わるようになった経緯を教えてください

河野倫子さん

河野さん医学部を卒業して3年ほど市中病院で勤務し、その後大学院に進みました。病態制御内科学の内分泌研究室に所属しています。大学院での研究テーマを選ぶ際に、指導教官である大中先生の勧めもあり、福岡コホート研究およびJ-MICC研究に関わるようになりました。現在、週1回ほど九大病院で甲状腺エコー検査とカンファレンスに参加し、それ以外の日は追跡調査に携わっています。

疫学研究の面白さは何ですか?

河野さん内分泌研究室では糖尿病の患者さんと接する機会も多いのですが、疫学調査で参加者を追跡していくなかで糖尿病などを発症するという流れを見ることで、これまでとは違った視点で生活習慣病をとらえて勉強することができるようになったと思います。

研究に関わってのご苦労は?

河野さん追跡調査に協力的な方がほとんどですが、5年経って高齢になられた方もおり、お電話をしても参加されたことを憶えていない場合もあります。そういった方への説明や対応に最初の頃は苦労しました。

研究を成功させるために心がけていることはありますか

河野さんアンケート調査票などを見る際に、なるべく実情に迫ることができるよう心がけています。矛盾点などがある場合も、ただ機械的に参加者の方に質問するのではなく、臨床の知識も生かしながらその方の背景を考え、想像力を働かせて情報を確認するようにしています。

J-MICC研究にどういった成果を期待しますか

河野さん例えば糖尿病にしても、同じ生活習慣を続けていても発症する人としない人がいます。また、罹患した場合に悪化する人としない人もいます。遺伝子多型などの違いによるそういった個人差がゲノム解析によって明らかになればと思います。

仕事に向き合うときに大切にしていることは?

河野さん仕事が早いほうではないのですが、じっくり考えて気づけることもあるので、研究も臨床も一つひとつ丁寧に向き合っていきたいと思います。

仕事から離れて癒される時は?

河野さん家で音楽を聞いたり、本を読んでいるときでしょうか。自宅にテレビを置いていないので、よくラジオを流しています。

試行錯誤を重ね、問題を一つひとつクリアしていきました

北村節子さん(九州大学大学院医学研究院老年医学分野 技術補佐員)

福岡コホート研究が始まった当初から調査に参画していらっしゃるとのことですが、ご苦労も多かったのではないですか

北村節子さん

北村さん私は、技術補佐員として、主に血液検体の分析やDNAの抽出・分注作業などを担当してきました。DNA抽出は自動分注装置が導入されたのですが、うまくいかない時もありました。条件設定が悪かったり検体の質が良くないと、元の検体から十分なゲノムの量が採れないのです。さまざまな試行錯誤を重ね、そうした問題を一つひとつクリアしていきました。次に待っていたのは次々と届けられる膨大な数の検体です。これを処理するために多くの時間を費やしました。すべての作業が終わったときには達成感がありました。でも、それで終わりではなく、これを長く保存していかなければならないという責任があります。

大変なお仕事に関与されるにあたり心がけてきたことは何ですか

北村さん検体番号と実際のサンプルを間違えないようにすることに最も気を遣いました。今は、採ったDNAがいつか日の目を見るときまでしっかりと保存・管理することを心がけています。J-MICC研究でも福岡コホート研究でも、すでに少しずつ成果が出てきており、自分がそうした研究に多少なりとも役立てていることを嬉しく感じています。


研究の立ち上げ時からの変遷を見てきたわけですが、振り返って思うことなどはありますか

北村さん当初一緒に仕事をしていたスタッフですでに辞められた方の中には、自分たちの携わっていた作業が成果につながりつつあることを知らない人もいるでしょう。そういう方たちに当時の仕事が形になりつつあることをぜひ伝えてあげたいと思います。

仕事を離れてほっとするとき、趣味などを教えてください

北村さんほっとするのは家族と過ごしているときです。特に趣味はありませんが、昔の友人と食事やお喋りをしたり、月に一度でも映画や観劇などに行く時間を持てれば良い気分転換になります。


老年医学分野の訪問研究員も一緒に。

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