日本人における野菜・果物摂取量と死亡リスクとの関連

研究ファイルNo.114:野菜と果物を食べることによって日本人の死亡リスクは下がるか?

 野菜と果物には、ビタミンやミネラル、食物繊維、カロテノイド、ポリフェノールなどの人の健康によい栄養素が豊富に含まれています。近年の欧米諸国を中心としたコホート研究は、野菜・果物摂取が死亡リスクの低下と関連することを報告しています。しかし、アジア人を対象としたコホート研究においては関連が一致していません。アジア人は欧米人よりも炭水化物が多く、脂質が少ない食事を摂る傾向にあるため、欧米人における関連とは異なる可能性があります。またアジア人を対象としたこれまでのコホート研究は分析対象者数が限られており、追跡期間も十分ではないことから、本関連はいまだ明らかではありません。

 そこで、日本多施設共同コーホート研究(J-MICC Study: Japan Multi-Institutional Collaborative Cohort Study)の参加者の追跡調査データにもとづいて、野菜・果物摂取量と死亡リスクとの関連を評価しました。研究対象者は、J-MICC研究のベースライン調査に参加した35歳から69歳の男女です。追跡調査データがない者、ベースライン調査から1年以内に死亡した者、極端な総エネルギー摂取量が推定された者、がんや循環器疾患の既往歴を有する者を除外し、男性34,523名と女性46,888名を分析対象しました(平均追跡期間は約10.7年)。対象者の一日あたりの野菜・果物摂取量は食物摂取頻度調査票によって推定し、エネルギー摂取量で調整しました。対象者を男女別に野菜摂取量と果物摂取量の5分位(Q1–Q5:第1五分位〜第5五分位)で分けました。関連を評価するにあたって、死亡リスクに大きな影響を与える喫煙や飲酒などの要因を分析モデルで考慮しました。また年齢や喫煙、食事による影響を考慮して関連を評価するため、年齢・喫煙による層別化解析および炭水化物・脂質・米飯摂取量による層別化解析を行いました。

 追跡期間中に3,340名の死亡が観察されました(男性2,135名[男性の6.2%]、女性1,205名[女性の2.6%])。図1は男女別に野菜摂取量と死亡リスクとの関連を示しています。男性の野菜摂取量は全死亡リスクおよび循環器疾患死亡リスクを有意に低下させました。全死亡リスクは、野菜摂取量がもっとも少ない群(Q1)を1としたとき、Q2で0.91倍、Q3で0.84倍、Q4で0.89倍、Q5で0.83倍となりました(傾向性P値 = 0.012)。また循環器疾患死亡リスクは、野菜摂取量がもっとも少ない群(Q1)を1としたとき、Q2で0.75倍、Q3で0.58倍、Q4で0.47倍、Q5で0.63倍となりました(傾向性P値 = 0.001)。女性の野菜摂取量と全死亡リスクおよび循環器疾患死亡リスクとのあいだには有意な関連は認められませんでしたが、野菜摂取量が多い女性は全死亡リスクが低い傾向にあることを認めました。 続きを読む

カテゴリー: 食事 | 日本人における野菜・果物摂取量と死亡リスクとの関連 はコメントを受け付けていません

2型糖尿病の遺伝的リスクが高い集団におけるフルーツジュース摂取と2型糖尿病との逆相関:J-MICC研究

研究ファイルNo.113:遺伝的に糖尿病になりやすい人では、フルーツジュース摂取が糖尿病リスクの低下と関連する

 フルーツジュースはビタミンなどの微量栄養素を含む一方で、糖分も多く含まれるため、糖尿病予防において体に良いのか悪いのかという議論が続いていました。(図1)そこで本研究では、単にジュースが良いか悪いかを調べるだけでなく、生まれ持った遺伝的な体質(遺伝的リスク)」と「ジュースを飲む習慣」が組み合わさることで、糖尿病リスクへの影響がどのように変化するか(これを専門用語で交互作用と呼びます)について、J-MICC研究に参加された約1万4千名の方々のデータを解析し検討しました。

図1 フルーツジュースの功罪: 矛盾する報告

続きを読む

カテゴリー: 糖尿病, 食事 | 2型糖尿病の遺伝的リスクが高い集団におけるフルーツジュース摂取と2型糖尿病との逆相関:J-MICC研究 はコメントを受け付けていません

日本人における喫煙行動関連の遺伝子多型と肺がんリスクの関連 ―喫煙量を介さない遺伝的影響の解明―

研究ファイルNo.112:同じ本数でも肺がんになりやすい人がいる? 喫煙習慣に関わる遺伝子と肺がんリスクの関係

背景

 喫煙は肺がんの最大の要因の一つです。日本では、現在も男性の4人に1人、女性の約14人に1人が喫煙しており、肺がん対策として喫煙行動の理解は依然として重要です。喫煙は「本人の意思による行動」と考えられがちですが、近年の研究から、「体質的にタバコの本数が多くなりやすい人」がいることがわかってきました。この体質の一因が、遺伝子の個人差、いわゆる遺伝子多型です。では、こうした「本数が多くなりやすい体質」を持つ人は、単に喫煙量が多いから肺がんになりやすいのでしょうか。それとも、喫煙量とは別の仕組みが関わっているのでしょうか。

 欧米の研究では、喫煙本数に関わる遺伝子が、単に「吸う本数」を増やすだけでなく、喫煙量とは別の仕組みで肺がんリスクに影響している可能性が報告されています。一方、東アジア人は欧米人と肺がんの特徴が異なることが知られており、日本人での検証が求められていました。

 2019年、約16万人の日本人を対象とした大規模な遺伝子解析により、1日喫煙本数と関連する5つの遺伝子領域が新たに見つかりました。しかし、これらの遺伝子がどのように肺がんリスクと関わるかは、十分に調べられていませんでした。

 そこで本研究では、遺伝子多型が、

  • 「喫煙本数を増やすことを通じて」肺がんリスクに影響するのか
  • それとも「喫煙本数とは関係なく」直接リスクに影響するのか

を、日本人集団で詳しく調べました。 続きを読む

カテゴリー: がん, たばこ, 遺伝子多型 | 日本人における喫煙行動関連の遺伝子多型と肺がんリスクの関連 ―喫煙量を介さない遺伝的影響の解明― はコメントを受け付けていません

遺伝的多型を考慮したコーヒー摂取と腎機能の関係

研究ファイルNo.111:コーヒーと腎機能の関係は遺伝子で決まる?

背景

 コーヒーは世界中で広く飲まれている飲料であり、心血管疾患、がん、2型糖尿病などのリスクを下げる可能性があることが報告されています。腎機能は高血圧や高血糖といった心血管代謝系のリスク因子と密接に関連しているため 、コーヒーが腎機能に対しても保護的に働く可能性が考えられますが、先行研究の結果は一貫しておらず、コーヒーと腎機能の関係について結論が出ない状況が続いていました。

 私たちは、個人のカフェイン代謝能力やコーヒー摂取行動に影響を与える「遺伝的多型」がコーヒーと腎機能の関係に影響を及ぼしているのではないかと仮説を立てました。遺伝的多型とは、人それぞれの体質の違いを生み出す、DNAの塩基配列の個人差のことです。この個人差によって病気へのかかりやすさや、薬の効きやすさ(今回の場合、コーヒー摂取行動やカフェイン代謝のしやすさ)などに違いが生まれます。

 本研究ではコーヒーに関連する3つの遺伝子多型に着目しました。1つ目はカフェイン代謝酵素に関わるrs762551(CYP1A2)、2つ目はその酵素の制御に関わるrs4410790(AHR),3つ目は習慣的なコーヒー摂取量と関連するとされるrs2074356(HECTD4)です。

方法

 本研究では、J-MICC研究のデータを用いて、先述の3つの遺伝的多型rs762551(CYP1A2)、rs4410790(AHR)、rs2074356(HECTD4)を考慮してコーヒーと腎機能の関係を検討しました。 続きを読む

カテゴリー: コーヒー, 腎臓病, 遺伝子多型 | 遺伝的多型を考慮したコーヒー摂取と腎機能の関係 はコメントを受け付けていません

日本人集団における食生活の多様性とメタボリックシンドロームのリスクの関連

研究ファイルNo.110:食事の多様性とメタボの関係を探る

 日本ではメタボリックシンドロームの有病率が高く、将来的な心血管疾患や糖尿病の予防が大きな課題となっている。その対策として食生活の改善は重要であるが、これまでの指導は「脂肪を控える」「糖分を減らす」といった特定の食品や栄養素の制限に偏りがちであった。一方、さまざまな食品を偏りなく摂取する「食事の多様性」が健康に与える影響については、日本人を対象とした十分な検証が行われてこなかった。

 そこで本研究では、日本多施設共同コーホート研究(J-MICC study)のベースライン時のデータを用い、日本人成人における食事の多様性とメタボリックシンドロームとの関連を横断的に分析した。食事調査から食品群の摂取状況を点数化し、食事の多様性が低い群から高い群までに分類した上で、メタボリックシンドロームおよびその構成因子との関係を詳しく検討した。

 日本多施設共同コーホート研究(J-MICC)の14地域のうち、必要データが不足していた3地域を除外し、35~69歳の地域住民等75,332人を対象とした。食事評価には47項目の簡易食品摂取頻度質問票を用い、「穀物・野菜、肉、乳製品、果物」の5食品群に基づく食事多様性スコア(DDS)および累積的食事多様性スコア(DDS-2)を算出した。メタボリックシンドロームは、NCEP-ATP III基準に基づき、腹囲の代替としてBMIを用いて定義した。年齢や性別、喫煙・飲酒習慣、運動の有無など、健康に影響しやすい要因を考慮したうえで統計解析を行った。さらに、肥満や高血圧、中性脂肪の高さ、善玉コレステロールの低さ、血糖値の高さといった、メタボリックシンドロームを構成するそれぞれの要素についても個別に分析した。データの一部に欠けがある場合は、信頼性を保つための統計手法で補完した。さらに、男女別や年齢層別の分析も行い、結果の一貫性を確認した。 続きを読む

カテゴリー: メタボリックシンドローム, 食事 | 日本人集団における食生活の多様性とメタボリックシンドロームのリスクの関連 はコメントを受け付けていません

日本人閉経後女性における性ホルモン結合グロブリンと脂質異常症の関連

研究ファイルNo.109:日本人の閉経後女性で、脂質異常症と深く関連する性ホルモン関連因子は?

 閉経後の女性では、女性ホルモンが減ることで血液中の脂質バランスが崩れやすくなり、動脈硬化や心臓病のリスクが高くなることが知られています。
一方で、性ホルモンそのものだけでなく、それらを血液中で運ぶ「性ホルモン結合グロブリン(SHBG)」というたんぱく質も、代謝や生活習慣病と関係しているのではないかと注目されています。

 今回、J-MICC研究に参加した閉経後の日本人女性570人を対象に、血液中の性ホルモンに加えてSHBG濃度と脂質異常症の関連性を調べました。

 その結果、SHBG濃度が低い人ほど、脂質異常症を持っている割合が高いことがわかり、特に中性脂肪が高い状態や、HDLコレステロール(善玉コレステロール)が低い状態と強く関連していました(表1)。 続きを読む

カテゴリー: 脂質 | 日本人閉経後女性における性ホルモン結合グロブリンと脂質異常症の関連 はコメントを受け付けていません

日本人中高年における簡易食物摂取頻度質問票(FFQ)の再現性と妥当性(食品群別摂取量)

研究ファイルNo.108:J-MICC研究が使っているFFQによる食品群別摂取量の評価は全国11地区において妥当であった。

背景

 J-MICC研究のようなコホート研究では、参加者のふだんの食事量を把握する必要がありますが、数千人、数万人という大規模集団では、ひとり1人が食べた物のすべてを把握する食事記録法では、労力や時間がかかるので現実的ではありません。そこで、J-MICC研究では、主な食物だけに絞って、およその摂取回数をたずねる47項目の質問票を使って、大まかな摂取量を調査しています。このような質問票を、FFQ(Food frequency questionnaire: 食物摂取頻度質問票)と言います(図1)。FFQの形式は択一式で、例えば「卵は」、「週1-2回?」、「週5-6回?」など、摂取頻度を直感的に答えてもらいます。

 しかし、1年分の摂取状況を正確に思い出して、実際の摂取回数を答えられる人は、なかなかいないので、FFQへの回答に基づく食事摂取量はあくまでも推定値です。そのため、コホート研究でFFQを使う時には、そのFFQの推定値が、どの程度、正確なのかを確かめる研究、つまり妥当性研究が必要になります。さらに、再現性研究といって、1年後に同じFFQを同じ人にやってもらう検証も必要です。質問のタイミングによって、回答が変わってしまうので、このFFQでは、どの程度の再現性があるかを調べておくのです。

 J-MICC研究は、東海地区の集団で良好な再現性と妥当性が実証されたFFQを使って追跡調査を始めたのですが、この研究では、もう一度、国内11カ所のJ-MICC研究の対象地域に拡大して、食品群(例えば、緑黄色野菜群、果物群など)の摂取量の妥当性と再現性を確かめる目的で実施しました。 続きを読む

カテゴリー: 食事 | 日本人中高年における簡易食物摂取頻度質問票(FFQ)の再現性と妥当性(食品群別摂取量) はコメントを受け付けていません

日本人一般集団の乳製品の摂取と死亡リスク:12年間の追跡調査

研究ファイルNo.107:日本人が日常的に摂取している程度の乳製品摂取は死亡リスクを下げる?

 乳製品を食べることは健康的な食習慣の要素の1つとしていろいろな国で推奨されています。しかし、欧米からの最近の研究では、乳製品をよく食べることが死亡リスクを下げる・下げない・関係しない、と結果が一致していません。また、日本人の乳製品の摂取量は欧米人よりかなり低く、アメリカ人の半分程度です。同じ食品でも摂取量によって疾病や死亡のリスクとの関連が違うことがあるので、日本人にとって乳製品が死亡リスクを下げるかどうかを知るためには、日本人を対象とした検討が必要です。

 そこで、日本全国の35~69歳の男女を対象に実施した日本多施設共同コーホート研究(J-MICC)の参加者79,715人のデータを用いて検討してみました。その結果、牛乳やヨーグルトといった乳製品をよく食べる女性は、そうでない女性に比べて12年間の追跡期間中の死亡リスクが19%低いことが明らかになりました。 続きを読む

カテゴリー: がん, 動脈硬化, 心臓病, 食事 | 日本人一般集団の乳製品の摂取と死亡リスク:12年間の追跡調査 はコメントを受け付けていません

日本の一般住民集団における2型糖尿病ポリジェニックリスクスコア(PRS)の評価 ~異なる人種集団から構築されたPRSの比較検証~

研究ファイルNo.106:日本人に適した糖尿病の遺伝的リスクスコア評価は?

 糖尿病は世界で増加しており、日本国内でも1千万人以上の人が糖尿病またはその疑いが強いとされています。糖尿病は生活習慣病の一つとして、食習慣の乱れや運動不足、肥満などが大きな要因として認識されていますが、その一方で家族歴や遺伝子の影響も決して小さくありません。誰が糖尿病を発症しやすいのかを遺伝的要因に着目して評価するための研究が世界各地で進められており、その一つの方法として、「Polygenic Risk Score(ポリジェニック・リスクスコア、PRS)」という指標が用いられます。これは多数の遺伝子型の情報を統合して、一人ひとりの遺伝的なリスクを数値化するもので、スコアが高いほど糖尿病にかかる危険性が高いと考えられます。

 これまでPRSは主にヨーロッパ系の大規模遺伝子データを用いて開発されてきました。しかし、遺伝的背景は人種や地域ごとに異なるため、糖尿病の予測などに欧州由来のPRSをそのまま日本人に適用すると、精度が十分でない可能性があります。今回の研究では、日本人を対象に作成されたPRSを用いて、糖尿病をどの程度正確に評価できるかを検証しました。比較対象として、欧州のデータを基に開発されたPRSを評価し、日本人における糖尿病の予測精度の違いを調べています。

 日本多施設共同コーホート研究(J-MICC Study)に参加した1万4千人以上の参加者を対象に、約100万箇所の遺伝子型情報で構成されるPRS(日本人・欧州人由来それぞれ)のスコア値を計算し、実際に糖尿病と関連しているかどうかを検証しました。 続きを読む

カテゴリー: 糖尿病 | 日本の一般住民集団における2型糖尿病ポリジェニックリスクスコア(PRS)の評価 ~異なる人種集団から構築されたPRSの比較検証~ はコメントを受け付けていません

コーヒー摂取量と血中アディポネクチンの関連:横断解析

研究ファイルNo.105:コーヒーを飲むと「やせホルモン」が増えるのか?

 コーヒーは世界中で飲用されている飲料の一つで、死亡リスクや様々な病気のリスクを低減させる可能性があると報告されています。これまでの我々の研究でも、コーヒーを多く飲む人(特にフィルターコーヒーやインスタントコーヒー)は、循環器疾患やがんのリスクであるメタボリック症候群やその構成因子(高血圧、高血糖、高中性脂肪、低HDLコレステロール)を有する割合が低いことが分かっています(研究ファイルNo.89 )。今回我々は、このような関連がみられたメカニズムとして「アディポネクチン」が関与しているのではないかと考えました。

 アディポネクチンは、巷では「善玉ホルモン」や「やせホルモン」と呼ばれることもあり、血液中のアディポネクチン濃度が高いと、①体内の脂肪を燃焼させる、②動脈硬化になりにくくなる、③インスリン(血糖値を下げるホルモン)の効果が高くなるなどのメリットがあることが分かっています。しかし、このアディポネクチンの血中濃度は、肥満のある方では低いことも分かっています。

 このような背景から我々は、肥満の有無に分けてコーヒー摂取量と血中アディポネクチン濃度の関連を検討することとしました。 続きを読む

カテゴリー: コーヒー, 肥満 | コーヒー摂取量と血中アディポネクチンの関連:横断解析 はコメントを受け付けていません