日本人男性における血中前立腺がんマーカーPSAのゲノムワイド関連解析

研究ファイルNo.68:日本人男性におけるPSA GWAS

前立腺がんは日本人男性において急速に罹患率(=1年間に人口10万人のうち病気にかかった人の数)が増加しており、2018年の全国がん登録罹患データでは日本人男性において最も罹患数の多いがんで、わが国の予防医学における重要課題の1つです(図1)。PSA(前立腺特異抗原)は前立腺がんの早期診断マーカーとして既に臨床現場で普及していますが、日本人における血中PSA濃度に関する遺伝要因については、マイクロアレイと呼ばれるガラス基板を用いた約100万か所の遺伝子多型直接測定にもとづくゲノムワイド関連解析(GWAS)による報告が一編あるのみで、GWASデータをもとに全ゲノム配列データベースから推測した1,000万か所の遺伝子多型解析(インピュテーションGWAS)による報告はないことから、今回我々はJ-MICC研究のインピュテーションGWASデータを用いて検討を行いました。

研究対象者は、J-MICC研究のGWAS対象者のうち、血清PSA値がある男性1,216名です。理化学研究所でGWASの遺伝子型決定を行い、名古屋大学でインピュテーションを行いました。得られた結果の再現性については、J-MICC研究静岡地区の男性参加者2,447名の血液サンプルを用いてPCR法によって検証しました。

その結果、染色体4番のSGMS2遺伝子多型(rs10000006)と、すでに報告のある染色体19番のKLK3遺伝子多型(rs2735839:KLK3はPSA蛋白そのものの遺伝子)が血清PSA値と統計学的に有意な関連を示しましたが(図2)、SGMS2遺伝子多型(rs10000006)と血清PSA値との関連は再現されませんでした。

今回のJ-MICC研究におけるインピュテーションGWASでは血清PSA値に関する新規の遺伝子多型は見つかりませんでしたが、すでに報告のあるKLK3遺伝子多型(rs2735839)が日本人男性においても血清PSA値に影響を与えることが確認されました。この遺伝子多型のGアレル(アレルとは、「片方の親から引き継がれる対立遺伝子」の総称)を持つと血清PSA値が約0.2ng/ml高くなります(図3)。本研究によって将来の遺伝的体質に応じた前立腺がんPSA検診の可能性が示唆されました。

図1.前立腺がんのイメージ
(“Flaticon.com”より引用)

図2. 血清PSA値GWASのマンハッタン・プロット(染色体を番号順に横軸に並べ、関連のP値の常用対数のマイナス値 〈関連の強さ〉 を縦軸に取ったグラフ)

 

図3.KLK3 rs2735839と血清PSA値

出典:

  • Hishida A, Nakatochi M, Tamura T, Nagayoshi M, Okada R, Kubo Y, Tsukamoto M, Kadomatsu Y, Suzuki S, Nishiyama T, Kuriyama N, Watanabe I, Takezaki T, Nishimoto D, Kuriki K, Arisawa K, Katsuura-Kamano S, Mikami H, Kusakabe M, Oze I, Koyanagi Y, Nakamura Y, Kadota A, Shimanoe C, Tanaka K, Ikezaki H, Murata M, Kubo M, Momozawa Y, Takeuchi K, Wakai K. Genome-wide association study of serum prostate-specific antigen levels based on 1000 Genomes imputed data in Japanese: the Japan Multi-Institutional Collaborative Cohort Study. Nagoya J Med Sci 2021; 83 : 183-194.
カテゴリー: J-MICC研究概要   パーマリンク

コメントは受け付けていません。