RAMP2とCLRの遺伝子変異は、脳卒中発症と関係する

研究ファイルNo.38:ヒトにおける、アドレノメデュリン受容体遺伝子変異(RAMP2とCLR)は、環境要因を考慮しても脳卒中発症と関連する。

 国内で発見された生理活性物質であるアドレノメデュリン(ADM)は、多くの組織に分布し、血管新生作用や血圧調節作用以外にも、抗炎症作用、臓器保護作用、抗酸化作用など、多彩な生理活性を有し、今までに3000本以上の論文が報告されています。ADMは、急性心不全、肺高血圧症、閉塞性動脈硬化症などに対する治験が行われ、良い結果が得られています。臨床応用が期待される一方で、経口投与が不可能であり、血中半減期も短く、長期間の継続治療が必要な高血圧症や動脈硬化症への臨床応用のためには新たな投与手段の開発が求められます。

 ADM受容体は、RAMP2という補助蛋白が7回膜貫通Gタンパク共役型受容体(CLR)に結合することにより機能します。遺伝子工学技術による血管のADM受容体欠損マウスを用いた解析では、ADM受容体機能不全は血管の恒常性破綻を生じ、その結果、全身の慢性炎症と臓器障害に繋がることが明らかとされています。(Circulation 2013, Koyama et al.)。一方、今までにヒトにおけるADM受容体の機能変化に関する報告はほとんどありません。

 そこで、私たちは今回、J-MICC研究に参加された14,087名の方々において、ADM受容体遺伝子(RAMP2とCLR)が、多様な血管障害と環境要因により発症する脳卒中と関係するか、381個の遺伝子多型を検討しました。脳卒中の発症には、遺伝子だけではなく、多くの生活習慣も関わることが知られているため、今回の解析では、日常の運動習慣、アルコール摂取量、喫煙、虚血性心疾患などの既往歴、肥満などの影響を考慮しました。それぞれの遺伝子多型は、マイナーアレルの有無で群分けを行いました。

 解析の結果、1個のRAMP2遺伝子多型と4個のCLR遺伝子多型は、脳卒中の発症を促進する可能性が明らかとなりました。(図)興味深いことに、これらの遺伝子多型の保有は、虚血性心疾患、高血圧症などとは、関係が認められませんでした。

 これらのことから、ADM受容体遺伝子(RAMP2とCLR)機能の変化が、環境要因を考慮しても脳卒中発症に関係する可能性があります。今後、研究が発展し、ADM受容体の役割が明らかとなれば、脳卒中の新しい治療標的となることが期待されます。

ADM受容体遺伝子RAMP2とCLRの遺伝子多型保有と脳卒中既往歴との関係

出典:

  • Koyama T, Kuriyama N, Ozaki E, Matsui D, Watanabe I, Takeshita W, Iwai K, Watanabe Y, Nakatochi M, Shimanoe C, Tanaka K, Oze I, Ito H, Uemura H, Katsuura-Kamano S, Ibusuki R, Shimoshikiryo I, Takashima N, Kadota A, Kawai S, Sasakabe T, Okada R, Hishida A, Naito M, Kuriki K, Endoh K, Furusyo N, Ikezaki H, Suzuki S, Hosono A, Mikami H, Nakamura Y, Kubo M, Wakai K. Genetic variants of RAMP2 and CLR are associated with stroke. J Atheroscler Thromb 2017; 24: 1267-1281.
カテゴリー: 動脈硬化, 遺伝子多型 パーマリンク