日本人における腎機能・慢性腎臓病リスクについてのゲノムワイド関連研究

研究ファイルNo.46:日本人における腎機能関連遺伝子の網羅的解析

慢性腎臓病は、尿をろ過する腎臓という臓器の腎糸球体という毛細血管の糸くずの様な構造体が、主に高血圧や糖尿病といった様な生活習慣病が原因で目詰まりを起こして体内の有害物質を尿として排泄する機能が低下し、進行すると末期腎不全となって透析が必要となり、心筋梗塞などを合併して死に至る怖い病気で、日本人の患者数は年々増加傾向にあり、1,000万人を超えると推算されています。

一方、私たち人間の遺伝子であるゲノムDNAは、22対(=44本)の常染色体と2本の性染色体(男性:XY、女性:XX)(計46染色体)上にある、約30億の塩基(アデニン:A、チミン:T、グアニン:G、シトシン:C)の配列で出来ており、その中で1,000塩基に1か所の割合で個人差のみられる配列があり(これを遺伝子多型といいます)、この配列の違いが個人個人の病気のなりやすさに関係していることが、近年の研究で明らかになってきました。
今回、私たちは、J-MICC研究に参加された約1万1千名の方々のデータを用いて、腎機能の指標である、推定糸球体ろ過率(eGFR)、血清クレアチニン(SCr)、慢性腎臓病発生リスクと、約1,000万か所の遺伝子多型との関連をゲノムワイド関連解析(GWAS)という手法で網羅的に調べました。

その結果、4つの染色体(2, 5, 17, 18番染色体)上の28個の遺伝子多型が統計学的に有意に腎機能と関連があることが分かり、独立した約15万人の日本人のデータを用いてそれら遺伝子多型と腎機能の関連の再現性を検討したところ、3染色体(2, 17, 18番染色体)の25個の遺伝子多型について、再現性が確認されました。
また、慢性腎臓病のある人とない人での遺伝子多型の頻度を同じく網羅的に比較したところ、4番染色体の2つの遺伝子多型について、関連がみられました。

今回の研究で、日本人における2, 4, 18番染色体の遺伝子多型と腎機能・慢性腎臓病リスクとの関連が新たに明らかにされました。2番染色体上のLRP2遺伝子は先天性の蛋白尿を伴う病気と、4番染色体上のMTTP遺伝子は脂質・糖質の代謝と、18番染色体上のNFATC1遺伝子は食塩感受性と、それぞれ関連があることがこれまでの報告で分かっています。今回の研究による発見が、今後の日本人の慢性腎臓病の体質に基づく予防法の発見に役立てられることが期待されます。


出典:

  • Hishida A, Nakatochi M, Akiyama M, Kamatani Y, Nishiyama T, Ito H, Oze I, Nishida Y, Hara M, Takashima N, Turin TC, Watanabe M, Suzuki S, Ibusuki R, Shimoshikiryo I, Nakamura Y, Mikami H, Ikezaki H, Furusyo N, Kuriki K, Endoh K, Koyama T, Matsui D, Uemura H, Arisawa K, Sasakabe T, Okada R, Kawai S, Naito M, Momozawa Y, Kubo M, Wakai K; Japan Multi-Institutional Collaborative Cohort (J-MICC) Study Group.
    Genome-Wide Association Study of Renal Function Traits: Results from the Japan Multi-Institutional Collaborative Cohort Study.Am J Nephrol. 2018; 47: 304-316.
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