不規則睡眠と全死亡の関連

研究ファイルNo.86:睡眠が不規則な人は全死亡リスクが最大1.5倍高い

 睡眠時間の長短がさまざまな疾患の発症や全死亡のリスクと関連のあることは、多くの研究により明らかになっています。また近年では、シフト勤務などによる不規則な睡眠も健康に害を及ぼすリスクと成り得ることが示唆されています。
本研究では、主観的な評価による不規則な睡眠が全死亡リスクとの関連があるかを検討しました。

 我々は日本多施設共同コーホート研究(J-MICC Study)のベースライン調査に参加された方のうち、解析に必要なデータが揃っていて、習慣的に睡眠薬を服用している人や追跡期間が1年未満の人を除外した8万1,382人(男性44.2%)を解析対象としました。睡眠の規則性については、ベースライン時の自記式アンケートに含まれていた「就床・起床時刻は規則的ですか?」の回答から判定しました。
その結果、9,768人(12.0%)が「不規則」と回答しました。なお、平均睡眠時間は6.6±1.0時間でした。また対象者を睡眠時間に基づいて、6時間未満、6~8時間未満、8時間以上の3群に分けました。

 死亡リスクに影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、BMI、飲酒・喫煙・運動習慣、教育歴、虚血性心疾患・脳卒中・がんの既往、および調査拠点)を調整後の全死亡リスクは、性・年齢別に解析すると、男性は年齢(60歳未満/以上)にかかわらず、睡眠時間が不規則な群は有意に死亡リスクが高いという結果でした。一方、女性では睡眠時間が不規則なことと死亡リスク上昇との関連が有意なのは 続きを読む

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ストレス対処行動と全死亡との男女別の関係:J-MICC研究

研究ファイルNo.85:ストレス対処行動は死亡リスク低下と関連する? 男女でどう違う?

 
 「ストレス」とは、外部から刺激(ストレッサー)を受けたときに生じる緊張状態(ストレス反応)のことで、この反応には、心理的反応、身体的反応、行動変化などがあります。ストレス反応は適応反応であり、必ずしも健康に悪影響するとは限りませんが、過度のストレスが長期間続くことで健康に悪影響を及ぼすことが分かっています。

 一方、「ストレスへの対処行動」は、強いストレス状況や出来事への認知的・行動的な反応であり、ストレスへの脆弱性を左右することが知られています。また、ストレスやストレス対処行動には、男女で差があることが分かっています。

 よって、ストレス対処行動によって、長期的な健康影響である全死亡リスクに差があること、それらの関連には男女差があることが考えられますが、これまでの研究結果では、大規模研究が少ない、健康な一般集団を対象とした報告はほとんどない、自覚的ストレスレベルを考慮した検証がされていない、男女別の検証がされていないなどの限界がありました。そこで私たちは、日本の大規模疫学研究である日本多施設共同コーホート研究(J-MICC Study)の参加者を対象に、ストレス対処行動が、自覚的なストレスの強さとは独立して、全死亡と関係するか男女別の関係と、男女差について検証しました。

 分析対象者は、2004年~2014年にJ-MICC研究に参加した35-69歳の男女 92,560人のうち、がん・循環器疾患既往者、追跡2年以内の死亡例、主要項目に欠損がある者を除外した79,580人としました。

 質問紙調査によって、5つのストレス対処行動(感情表出、[感情的な]支援希求、肯定的解釈、積極的問題解決、なりゆきまかせ)の実施頻度を4段階(ほとんどない、たまに、よく、非常によくある)で聴取しました。最近1年間の自覚的なストレスは4段階(まったく感じかなった、あまり感じかなった、多少感じた、おおいに感じた)で把握しました。

 統計解析を行い、男女それぞれストレス対処行動ごとの全死亡リスクがどの程度異なるかを計算しました。また、性別により関連に違いがあるかどうかも確認しました。 続きを読む

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中高年の日本人男女における自覚ストレスおよび対処行動と腎機能との関連

研究ファイルNo.84:自覚ストレスおよび対処行動は腎機能に影響を与える

 末期腎不全(End-Stage Renal Disease: ESRD)による透析患者は増加しており、2017年末に33万人を超えました。透析にかかる医療費は、年間1兆6000億に上ると推計され、総医療費の4%を占め医療経済上の大きな問題となっています。また、経済面のみならず患者の生活の質や生命予後にも影響を及ぼすと報告されています。慢性腎不全(Chronic Kidney Disease: CKD)は、腎機能の低下が慢性的に続く病気で、CKDの早期診断と管理がESRDの予防に重要です。CKDの危険因子は、喫煙、飲酒、肥満などが報告されていますが、腎機能低下における心理社会的要因の役割は解明されていません。そこで、本研究では、自覚ストレスおよび対処行動(感情表出、支援希求、肯定的解釈、積極的問題解決、なりゆきまかせ)と腎機能(eGFR値)の関連を調べました。eGFR値とは腎臓の機能を示す指標で、値が低いほど腎臓の働きが低下していることを示します。 続きを読む

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新しい痛み関連マーカーを探す遺伝子多型研究

研究ファイルNo.83:プレイオトロフィンは痛み、鎮痛薬感受性と関連する

 厚生労働省が定期に実施している国民生活基礎調査でも腰痛や関節痛、頭痛は国民の多くが悩まされていることが明らかになっている他、がんの患者さんでもがんの進行度に関わらず痛みに悩まされていることが多いことが知られています。痛みは生活の質(Quality of life: QOL)を低下させることは当然のことながら、痛みのために身体の活動性が低下し生活習慣病など全身の健康状態の悪化に繋がることも明らかになってきました。そこで、世界保健機関(WHO)は、慢性的な痛みを疾患に伴う症状(例:変形性膝関節症に伴う膝痛)としてだけでなく、慢性的な痛み自体が疾患であると定義しています。
このように痛みは世界的な健康課題として認識されていますが、その発症メカニズムの解明とそれに基づく治療法の開発が不十分です。痛みの原因を究明する研究では、モデル動物を用いた基礎研究が中心となっていますが、ヒトの痛みとの違いも指摘されています。そこで私たちは、痛みのある患者さんの遺伝的に共通する特徴を網羅的に調査することで、ヒトの痛みの発症や重症化に関わる新しい分子を探索することを目的に研究を実施しました。 続きを読む

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睡眠薬を使用している不眠症の性・年齢特異的な死亡リスク

研究ファイルNo.82:睡眠薬を服用している不眠症の死亡リスク

 不眠症は、睡眠時間が十分に取れないことや睡眠の質が低下することで日中の疲労、集中力の低下などが起こり、生活に支障をきたす状態です。不眠症と死亡が関連性を示した報告がありますが一貫した結果が得られておりません。睡眠薬の使用も死亡リスクを上昇させる可能性が示唆されており、不眠症治療を受けている人の併存疾患による影響を考慮した睡眠薬の服用と死亡リスクとの関連についての研究はなされていませんでした。そこで本研究では睡眠薬の服用と死亡との関連について、がんや生活習慣病などの併存疾患の影響を考慮した検討を行いました。 続きを読む

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習慣的なコーヒー消費量と骨格筋量の関係

研究ファイルNo.81:コーヒーの消費量と骨格筋量

 コーヒーは世界中で飲まれている飲料であり、病気の発症や死亡リスク低下と関連していることが報告されています。一方、サルコペニア(加齢に伴う骨格筋量と機能の低下)に対するコーヒーの効果はよくわかっていません。過去の動物実験では、コーヒーが発揮する抗炎症効果によってサルコペニアを予防する可能性が示唆されています。しかし、人に対しての効果は十分に検討されていませんでした。今回の研究では、コーヒーの消費量と骨格筋の関係を調べ、その背景に抗炎症作用が関与しているとの仮説を立てて調査を行いました。

 我々は、J-MICC研究佐賀地区の二次調査に参加された45~75歳の6369人を対象に、習慣的なコーヒーの消費量、骨格筋量および握力との関係について横断的に調査しました。コーヒーは1日あたりの消費量として換算され、全く飲まない・1 杯未満・1~2杯・3杯以上の4グループに分類しました。骨格筋量は生体電気インピーダンス法で測定しました。また、年齢、体脂肪量、喫煙、飲酒、緑茶の消費量、総エネルギー摂取量、タンパク質摂取量、服薬状況、高感度CRP(炎症レベルの指標)も解析に含めました。 続きを読む

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日本人集団におけるゲノムワイドなポリジェニックリスクスコアと高血圧との関連

研究ファイルNo.80:遺伝的多型の総合スコア(ポリジェニックリスクスコア)と高血圧

 近年のゲノム医学研究では、疾患の遺伝的な要因を網羅的に探索するゲノムワイド関連解析研究(GWAS)が盛んに行われ、疾患と関連する遺伝的変異がこれまでに多く同定されてきました。GWASに続く研究の1つとして、遺伝的変異の総合スコア(いわゆるポリジェニックリスクスコア)が疾患の診断・予測に有用であることが欧米人集団を中心に報告されていました。一方で、遺伝的な背景や生活様式の異なる他の集団ではPRSの精度が低いことも報告されていました。

 そこで、J-MICC研究の参加者のうち遺伝子型を同定している12,000人でPRSを計算し、高血圧の保有率、収縮期血圧や拡張期血圧との関連を横断的に調査しました。PRSを計算するための各遺伝的変異の効果量については、バイオバンクジャパンで行われたGWAS結果を参考にしました。高血圧の基準については、1)収縮期血圧が130mmHg以上、2)拡張期血圧が85mmHg以上、3)降圧剤の服薬のいずれかに該当する者としました。 続きを読む

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メタボリック症候群および代謝的に不健康な肥満とがん死亡率との関連:日本多施設共同コーホート(J-MICC)研究

研究ファイルNo.79:メタボリック症候群および代謝的に不健康な肥満とがん死亡率との関連

 メタボリック症候群は、腹部肥満、血圧高値、脂質異常症、高血糖など心血管疾患の危険因子が集積している状態です。メタボリック症候群は、2型糖尿病や心血管疾患の発症リスクが高く、現在、我が国のみならず世界中で大きな公衆衛生上の問題となっています。しかし、これまで、メタボリック症候群とがん死亡率の関連性に関する疫学研究では一致した結果は得られていません。

 近年、代謝的に健康な肥満と代謝的に不健康な肥満という概念が提唱されています。肥満を、代謝的に健康な肥満と代謝的に不健康な肥満に分類することは、慢性疾患の発症リスクの高い、もしくは低い肥満者のサブグループを特定するのに有用である可能性があります。これまでのコホート研究では、代謝的に不健康な肥満は代謝的に健康な肥満よりも心血管疾患および全死因死亡のリスクが高いことが報告されています。

 本研究では、J-MICC研究において、メタボリック症候群とその構成要素ががん死亡率と関連しているかどうか、また、肥満と代謝的な健康状態によるがん死亡のリスクについても検討しました。

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授乳を行うことはメタボリック症候群を予防するか:横断研究

研究ファイルNo.78:授乳はメタボリック症候群を予防するか

 メタボリック症候群は肥満、高血圧、血中コレステロールの異常(脂質異常症)、高血糖から成り立つ状態であり、心疾患、がん、腎臓病、早期死亡などの一因とされています。そして、子供に授乳を行った経験(授乳歴)のある女性では、このメタボリック症候群が生じにくいことが報告されています。しかし、授乳を行うことはメタボリック症候群を予防しないとする報告もあり、これまでその効果について明確な結論は出ていませんでした。また、授乳を行うことは糖尿病や心疾患を予防するものの、年齢とともにこの予防効果が弱まる可能性があることも示されています。そこで今回の研究では、①授乳を行うことはメタボリック症候群を予防する効果があるのか、②この予防効果は一部の年齢に限られるのかを検討しました。

 今回の研究では、J-MICC研究の第1回目調査(ベースライン調査)に参加した、35–69歳の出産歴を持つ女性(11,118名)を対象としました。授乳歴、メタボリック症候群、その他の要因については、第1回目調査時に同時に測定を行いました(横断研究と呼ばれる研究方法です)。授乳歴については、子供1人あたりの最長授乳期間、授乳した子供の数、総授乳期間(最長授乳期間と授乳した子供の数を掛けることで算出)の3つで評価しました。また、授乳の予防効果が対象者の年齢層で異なるかを検討するために、対象者を55歳未満と55歳以上の2群に分けて統計解析を実施しました(先行研究の多くで対象者の年齢の平均値が55歳未満であり、55歳以降での授乳の効果が明らかではなかったためです)。 続きを読む

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朝食欠食および短時間睡眠とメタボリック症候群との関連についての横断研究

研究ファイルNo.77:朝食欠食・短時間睡眠とメタボリック症候群との関連

 朝食を欠食する人や睡眠時間が短い人は太りやすいことがこれまでの研究で報告されています。それでは、メタボリック症候群(MetS)との関連はどうでしょうか。MetSは肥満や代謝異常など、心血管疾患の危険因子が集まった状態を指します。これまでに短時間睡眠とMetSとの関連は報告されていますが、朝食欠食との関連についての報告はあまりありません。また朝食欠食に短時間睡眠が組み合わさることによりMetSに影響があるかどうかは明らかではありません。

 そこで、私たちは日本多施設共同コーホート研究(J-MICC Study)のベースライン調査に参加された方のうち、解析に必要なデータがそろっていて、心疾患や脳卒中の既往がなく睡眠薬を服用していない29,780名(男性14,907名、女性14,873名)を対象として、朝食欠食の有無および1日の平均睡眠時間とMetS有病割合との関連について男女別に調べました。またMetS構成因子(肥満、血圧高値、中性脂肪高値、HDLコレステロール低値、血糖高値)ごとの関連も評価しました。朝食欠食者は「朝食の摂取頻度が週6日未満の者」と定義しました。また睡眠時間については、6時間未満(短時間睡眠)、6~8時間未満、8時間以上(長時間睡眠)の3群で対象者を分けました。解析では、朝食欠食なし群および睡眠6~8時間未満群を基準群としました。

 解析の結果、男性の朝食欠食および短時間睡眠はMetS有病割合と正に関連していました(図1および2)。女性では本関連は観察されませんでした。また朝食欠食の有無と睡眠時間を組み合わせた解析では、MetS有病割合との関連は男女ともに大きく変わりませんでした。MetS構成因子ごとの解析では、朝食欠食および短時間睡眠は男女ともに肥満と正に関連していました。本関連は、食事の質の指標(栄養パターン)を調整することによって有意ではなくなり、食事内容の影響が大きいことが分かりました。 続きを読む

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