DNA損傷マーカーと強度別身体活動量との関連は男女で異なる

研究ファイルNo.37:DNA損傷マーカーである尿中8-ヒドロキシデオキシグアノシン(8-OHdG)の濃度は、女性では総身体活動量と負の相関が、男性では中高強度の身体活動量と負の相関がみられる

DNA損傷マーカーである尿中の8-ヒドロキシデオキシグアノシン(8-OHdG)の濃度は加齢とともに上昇し、がん罹患や死亡の予測マーカーである可能性が示唆されています。これまでの研究から、身体活動量が多いほど尿中の8-OHdG濃度が低いことが報告されており、そのメカニズムの一つとして身体活動によって内因性の抗酸化能が亢進することが考えられています。しかし、どのような強度の身体活動が尿中の8-OHdG濃度と相関するのかについて、人での検討は十分ではありませんでした。

そこで、今回、J-MICC佐賀地区の5年後調査に参加された男性2,370人、女性4,502人について、男女別に強度別の身体活動量と尿中の8-OHdG濃度の関連について検討しました。

その結果、女性では総身体活動量と尿中の8-OHdG濃度の間に有意な負の相関を認めました(図1)。また、中高強度の身体活動量と負の相関も見られましたが、総身体活動量の影響を調整すると相関は見られなくなりました(図2)。このことから、女性では強度によらず、身体活動の量を増やすことが遺伝子損傷の抑制につながる可能性が示唆されました。
一方、男性では総身体活動量と尿中の8-OHdG濃度の間に有意な相関は認めませんでした(図1)。しかし、中高強度の身体活動(ウォーキング以上の運動強度の身体活動)と有意な負の相関が認められ、この相関は総身体活動量の影響を調整しても認められました(図2)。このことから、男性では中高強度の身体活動の量を増やすことが遺伝子損傷の抑制につながる可能性が示唆されました。

以上より、身体活動によるDNA損傷抑制には男女差があることが明らかになりました。運動は大腸がんや乳がんの予防因子であるとされていますが、がん予防に効果的な身体活動の強度が男女で異なる可能性が示唆されました。今後、更なる研究により、将来のがん予防に役立てられることが期待されます。


図1図2

出典:

  • Hara M, Nishida Y, Shimanoe C, Otsuka Y, Nanri H, Yasukata J, Miyoshi N, Yamada Y, Horita M, Kawai K, Li YS, Kasai J, Kasai H, Higaki Y, Tanaka K. Intensity-specific effect of physical activity on urinary levels of 8-hydroxydeoxyguanosine in middle-aged Japanese. Cancer Sci. 2016; 107: 1653-1659.
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