ゲノムワイド関連解析によるストレス対処行動と遺伝子の関連

研究ファイルNo.43:シナプス形成やシナプス伝達物質の調節に関与する遺伝子(FBXO45)は、ストレス対処行動の「感情表出」と関連している。

ストレス対処行動は、日常生活で経験する問題やできごとなどに起因する精神ストレスに対処するための心理社会的行動です。精神ストレスを軽減させるためには、複数の対処行動を適切に使用することが重要であり、特定の対処行動の使用頻度が低いことは精神ストレスに対する脆弱性につながると考えられています。これまでに、精神ストレスや精神疾患に関連する特定の遺伝子についてストレス対処行動との関連が報告されていましたが、そのような遺伝子以外にも対処行動に影響している遺伝子が存在する可能性があります。本研究は、ヒトの遺伝子情報の全体をほぼカバーする遺伝子について解析するゲノムワイド関連解析という手法を用いて、ストレス対処行動と関連する遺伝子を探索しました。

その結果、J-MICC研究に参加した日本人約14,088名の5つのストレス対処行動(感情表出、支援希求、肯定的解釈、積極的問題解決、なりゆきまかせ)のうち、「感情表出」(嫌だと感じていること、思っていることを表情に出す)の遺伝率(行動を使用する頻度が高いか低いかについて、環境ではなく遺伝子で説明できる割合)は、約20%と比較的高いことがわかりました(図)。近年、行動に寄与する遺伝子は単一ではなく、複数の遺伝子が協働して関与している可能性が考えられていることから、たんぱく質をコードする遺伝子群(複数の遺伝子を統合)とストレス対処行動との関連を検討した結果、「感情表出」と神経細胞の情報伝達や調節に関わるFBXO45という遺伝子群に関連がみられることがわかりました。

本研究の結果は、ストレス対処行動に遺伝的な寄与があること、さらに「感情表出」というストレス対処行動に神経伝達を調整する遺伝子との関連があることを示唆します。今後、これらを手がかりとして精神的不健康に至るメカニズムや予防対策などに役立てることが期待されます。

本研究におけるストレス対処行動と自覚ストレスの遺伝率

本研究におけるストレス対処行動と自覚ストレスの遺伝率

出典:

  • Shimanoe C, Hachiya T, Hara M, Nishida Y, Tanaka K, Sutoh Y, Shimizu A, Hishida A, Kawai S, Okada R, Tamura T, Matsuo K, Ito H, Ozaki E, Matsui D, Ibusuki R, Shimoshikiryo I, Takashima N, Kadota A, Arisawa K, Uemura H, Suzuki S, Watanabe M, Kuriki K, Endoh K, Mikami H, Nakamura Y, Momozawa Y, Kubo M, Nakatochi M, Naito M, Wakai K. A genome-wide association study of coping behaviors suggests FBXO45 is associated with emotional expression. Genes, brain, and behavior, 2019; 18: e12481. doi: 10.1111/gbb.12481.
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